南仏プロヴァンスと英コッツウォルズをめぐる14日間の旅(4)

ロトンド噴水
マルセイユ・サン・シャルル駅から在来線で北へ向かうと、エクサン・プロヴァンス(以下エクス)駅の手前で突然、窓いっぱいにサント・ヴィクトワール山が現れる。
アヴィニョンからエクスへは、TGVを利用すれば20分ほど。ただし、エクスTGV駅は市街から10km以上も離れている。しかも、山とは出逢えない。やはりマルセイユ経由で2時間、南仏のどこか寂寥とした景色を眺めながら、ゆっくりと旅を楽しみたい。セザンヌが幼いころから目にしていたこの山を30代後半になって、モチーフとして再発見したのも車窓からだったといわれている。
マルセイユ ベルジュ埠頭
マルセイユ・サン・シャルル駅
エクサン・プロヴァンス駅
まずは、彼の作品を所蔵しているグラネ美術館をめざす。
街はロトンド噴水を起点に東西に伸びるメイン・ストリート──ミラボー通りをはさんで、北側が観光客でにぎわう旧市街。南にはルイ14世の時代に整備された貴族の邸宅街、閑静なたたずまいのマザラン地区が広がる。美術館はこちら側。セザンヌの生家もある。
レ・ドゥー・ギャルソン
エクスの名は、古代ローマの執政官セクスティウスがこの地に冠した「アクアエ・セクスティアエ」(セクスティウスの水──の意)から転じたとされる。その名の通り、いたるところ意匠を凝らした噴水が設えられている。
入口で「日本人か?」とたずねられる。「そうだ」と答えると、入館料が無料になった。・・・? セザンヌより60年ほど早くエクスに生まれた、フランソワ・マリウス・グラネの遺贈作品をもとに開館された美術館だ。ところが、19〜20世紀の作品を展示しているフロアはクローズしていた。それでか・・・涙。
舗道に埋込まれたセザンヌゆかりの
スポットへと導くエンブレムプレート
セザンヌの生家
サン・ジャン・ド・マルト教会
グラネ美術館
気をとり直して、セザンヌのアトリエをめざす。
旧市街の北端からほぼ一直線に伸びる “セザンヌ通り” を、ひたすら登りつづける。20分あまりでアトリエの前にたどり着く。ほとんど人と出逢うことのない通りとは裏腹に、敷地内は観光客であふれていた。急坂にも関わらず、ご高齢の方の姿が目立つ。
▲▼▼セザンヌのアトリエ

レ・ローヴ
レ・ローヴの向かいにある
セザンヌの名を冠した老人施設
サント・ヴィクトワール山を望むにはさらにこの上10分ほどのところ、レ・ローヴの丘に登らなければならない。気をとり直すどころか、気合いを入れ直さなければ──。

市庁舎広場
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□最期の10年間だけでも100点以上の作品に描いた。
サント・ヴィクトワール山
サント・ヴィクトワール山は南仏ブーシュ・デュ・ローヌ県と隣接するヴァール県にかけ、18kmにわたって連なる丘陵である。最も高いところで1011m。ごつごつとしたライムストーンの山肌は、手前に広がるプロヴァンスの緑あふれる風景とは好対照を見せる。
セザンヌがこの山を最初に描いたのは1870年、『サント・ヴィクトワール山と切り通し』だとされている。彼はこのとき31歳。だが、晩年の10年間だけでも100点以上の作品に描いたという、最も愛されたモチーフのひとつはここではまだ構図の中心にすらない。
上にも書いたように、ブーシュ・デュ・ローヌ県の県都エクスに生まれたセザンヌが、ずっと目にしてきたこの山を画題として意識したのは30代も後半になってから。たまたま列車の窓から見たときのことだった。
パリ生まれ、エクス育ちの作家ゾラとは幼いころからの親友で、のちに “絶交” 。1902年、ゾラがドレフュス事件の渦中で突然死去したのと前後して描かれた『レ・ローヴから見たサント・ヴィクトワール山』には、どうしても彼のこのときの心情が重なる。生来の気難しさから友人と呼べる人間をほとんど持たなかった彼ゆえに、ゾラの死はとり返しがつかない。
セザンヌが最晩年に好んだレ・ローヴからのアングルは、“セザンヌ通り” にある彼のアトリエからさらに10分ほど登った左手の丘の上。作品のパネルなども展示され、美しく整備されている。ふり返ると、のちのキュビスムを用意した代表作に描かれているサント・ヴィクトワール山が、そこにそのまま現れる。
□若きセザンヌが友人たちと夕食前の3時間を過ごした。
レ・ドゥー・ギャルソン
エクスのクール・ミラボー(Cours Mirabeau ミラボー通り)は、ヨーロッパで最も美しい通りだとされている。プラタナスの並木がつくる木陰では、この日アンティーク市が開かれていた。
起点となるド・ゴール将軍広場には3体の白亜の彫像が睥睨するように立つ、ひときわ大きなロトンド噴水がある。この噴水から数えて3つ目の噴水の先、左手にカフェ「レ・ドゥー・ギャルソン」はある。
創業1792年、当時のままのインテリアが見事だ。サー・ウィンストン・チャーチル、パブロ・ピカソ、ジャン・コクトー、アンドレ・マルロー、エディット・ピアフ、ジャン=ポール・ベルモンド、アラン・ドロン──数多くの著名人がここに集った。若きポール・セザンヌはエミール・ゾラらリセの友人たちと、夕食前の3時間をここで過ごしたという。
現在のホスピタリティは・・・「カフェ・ヴァン・ゴッホ」と比較すれば、ずっと洗練されている。レ・ローヴからの帰り道、ビール(ハイネケン 400㎖)とグラスワイン(白)でひと息つくのもよい。いずれも5ユーロ。

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