『テロル』──平和を知らない子どもたちの国で。
「レストランを爆発させた犯人はきみの奥さんだとしか思えないんだよ」。なぜ? 妻とふたり、ユダヤ人もうらやむ幸福な家庭をつくり上げたと信じて疑わなかったアラブ系イスラエル人のエリート医師が、その答えを探すところから物語は動き始めます。
60年以上も前に、一瞬にしてすべてを奪われる恐怖から解放された日本人には、アルジャジーラが日々伝えるイスラエル+パレスチナの映像はあまりに遠い出来事と映るでしょう。そして、ややあって、その悲惨な景色の周囲にも私たちと同じように日々の暮らしに喜びや悲しみを育む人びとの生活があることに思いいたります。
主人公の大叔父が、アラビアのロレンスについて語った言葉。「あの蒼白い顔をした悪魔は霧の晴れぬ国から来て、オスマン帝国に対してベドウィンを蜂起させ、イスラム教徒のあいだに反目の種を植えつけた」。そう、これは2000年にわたる宗教対立などではなく、第1次大戦のときの英国のいわゆる“三枚舌外交”に端を発していたことを思い出します。
欧米が勝手につくり、変更を認めない20世紀以降の世界──。アフリカ大陸に引かれたほぼ直線の国境線を思い浮かべれば十分でしょう。日本政府が国際社会というとき、いったいどの国を想定しているでしょうか・・・。そこには、そのまま私自身の認識も投影されているのでしょう。だからこそ、書物や映像を通して可能な限り多くの国の文化にふれたいと考えています。
たとえば、ドキュメンタリー映画「プロミス」はうかつにして怠惰な私に、イスラエルとパレスチナの7人の子どもたちの声を通して、憎しみの連鎖の中に生まれつつある希望を伝えてくれました。数かずの映画賞を送られた名作です。
北朝鮮の精鋭部隊が福岡ドームを占拠する村上龍著『半島を出よ』、東京と地球の未来をかけて闘う反政府ゲリラを描いた池上永一著『シャングリ・ラ
』、お台場を徹底的に破壊して爽快な(?)福井晴敏著『Op.ローズダスト
』、日系二世の米兵が原爆投下阻止のために太平洋を渡る建倉圭介著『デッドライン
』──日本人作家によるこれらの作品はいずれもスリリングな展開で、最後まで一気に読ませてくれます。
それでも、それは小説の世界です(当たり前か・・・)。『テロル』の舞台となった国でも、特異な舞台設定がなければこうした物語が成立しなくなる日が来ることを願ってやみません。
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