夏の思ひ出、浴衣の記憶。
21世紀最初の夏のはじめ、
何を思ったか
母が妻に浴衣を買ってあげると言い出した。
八王子に転居して20年あまり──
その間、両親が何度か注文していた
市内の呉服屋さんにまたお願いするという。
思えば、いまは他界した父は
家では着物の人であった。
というわけで、週末にその呉服屋さんがやって来た。
持参していただいた反物数点を広げると、
わが家のリビングはひととき
色彩のショールームのようだった、らしい。
「外商みたい!」
妻はすっかり舞い上がっていた。
しかし、私は別のことに気をとられていた。
(さっきインターホンで、
あ・ら・い呉服店って言わなかったか・・・)。
荒井呉服店──創業100年を迎えようとする老舗中の老舗にして、
あのユーミンの実家じゃないか!?
お店の前の通りでは
「ユーミンストリート」計画なるものも進行中だという。
もちろん荒井由実も松任谷由実も知らない両親には、
単なる顔なじみの呉服屋さんでしかないのだが。
その年の夏祭りの日、
ご近所の美容院に着付けと髪をお願いした妻は
めでたく浴衣デビューを果たす。
だが、その後は一度も袖を通していない。
一人で着られぬ悲しさか。
デジタルカメラが切り取った祭りの記憶はいまも鮮やかだが、
浴衣のほうはタンスの中で少しずつ色褪せていく。
ちなみに、ユーミンのお母様とわが母の名は同じ「芳枝」だが、
これはこの際なんの関係もない。
* * *
その母も、今年2月に他界しました。もうすぐ新盆です。
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